屠殺のエグザ
プロローグ:少女 と 戦場
それは、少女の屠殺場だった。
見渡す限りの荒野に一人佇む彼女の足元には、幾人もが散らばり倒れている。
その中の一人が、必死の体で顔を上げた。
「と……〈屠殺〉、……解っているだろうな……いず、れ……〈協会〉が執行者を……」
最後まで、言わせない。
少女は言葉を続けようとした男に近付くと、無表情にその頭を踏み潰した。
ぴしゃり、水の跳ねるような音。
続けられるはずだった声の代わりに荒野に満ちたのは、ただ、静寂だけ。
今日襲ってきたのは、全部で十八人。いつもに比べて、少し多かった。こちらから出向かなくても狩れるのはいいが、あまり数が増えても困る。そろそろ、ここも潮時かもしれない。
手にした黄金色の剣を振る。刃の血が、地面に弧を描いた。
少女の戦いに、感情は無い。
相手が憎いわけでも、ましてや敵意など、持ってはいない。
ただ、殺す必要があるから、殺すだけ。
人を殺すという感情は、相手が人でなければ成り立たない。
少女にとって、彼らは人間ですらない。人だと見ていない。
まるで家畜が相手のように、淡々と武器を振るう彼女を、彼らはいつしか――
――〈屠殺のエグザ〉と、そう呼ぶようになった。
少女は一度だけ、天を仰ぐ。
満天に広がる星空は、今日で見納めだ。
東へ。
このまま、東へ。
少女は歩き出した。
今まで辿ってきた軌跡、その先へ、求める未来へ。
たとえ幾人を殺そうとも、どれだけの血で汚れようとも。
己が願いが叶うなら。
少女は今日も、誰かを屠る。