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BLACK=OUT 2nd

第八章第七話:消失

 宮葉小路たちが作戦室に飛び込んだ時、正面の大型ディスプレイには戦闘中のマークスが映し出されていた。四宝院の言った通りBOBを発動しているマークスが、しかし予想に反してノースヘルのメンタルフォーサーを相手に苦戦している。
「状況は」
「あかん感じです。完全に対応されましたわ」
 敵勢には征二の姿も見える。彼は全てではないものの、BOBが何であるかを知っていた。彼から情報が渡った可能性は高いだろう。
「あの浮遊する短剣は何だ」
「式神ですねぇ。現在までに四十二本、同時に使役しているのを確認していますぅ」
 答えたメイフェルは、自分の席で必死にコンソールを叩いていた。オペレーターである彼女は同じオペレーターの四宝院とは違い、情報分析とその伝達が主な役割である。
「まだまだ余裕そうだな……まったく、これだからノースヘルの人工メンタルフォーサーは……」
 知らず苦い顔の宮葉小路だが、状況は確かに厳しかった。マークスのBLACK=OUTは近接戦闘を志向しているが、ノースヘルはライカ、セブン、雅の三人がショートレンジに強い。いずれもBOB状態のマークスに及ぶスピードはないが、僅かな隙をフォーの式神が帳消しにしている。唯一、積極的に戦闘参加していないのは征二だけだが、彼はシールド能力を持っているのだ。いざとなれば盾となるだろう。
「輸送部の準備が整い次第出撃する。それまで可能な限り敵の動きを見ておこう」
「あ、マークスちゃん、テクニカル使った」
 神林が画面を指差した。全方位を凍結させて砕く、サドネスの術式。マークスが「ヴァリアス・フェイト」という名で登録しているテクニカルだ。戦いの傷から流れる自身の血で描かれた記述詠唱がその威力を底上げしている。
 敵のレジストは間に合ったが、足を氷漬けにされ機動力は封じられた。しかし敵のうちの一人、ライカが炎で氷の拘束を解き、マークスに襲いかかる。間髪を入れず二度目のテクニカルを放つマークス。今度こそ敵は完全に沈黙した。一転、マークスの圧倒的優位だ。
「ループを仕込んでいたか。さすがだな」
「征やんは平気みたいね」
「シールドで無効化したんだろう。今までのことから考えれば不思議じゃないが、この威力のテクニカルでも完全に防ぐのは凄まじいな」
「マークスさんは水島さんと交渉に入っ……て何やこれ!」
 四宝院が目を見開いた。征二とマークスの間には結構な距離がある。いや、あった。それを一瞬で消し去り、征二がマークスの弾丸をシールドで止めたのだ。
「メイフェル、今のは?」
「映像、出しますねぇ」
 別のディスプレイに、先ほどの一部始終が再び、今度はスローで映し出される。銃口が光った時には、まだ征二は動いていない。しかし直後、二人との間の空間が白く光ったかと思うと、征二はマークスの前に移動していた。
「もしホントにこのスピードで動いたのならぁ、水島さんは加速度で潰れてますねぇ」
 何だこれは。宮葉小路は、いや、その場にいた全員が言葉を失う。征二の隠された能力だとでもいうのだろうか。
 いや。宮葉小路はかぶりを振った。どこかで同じものを見た記憶がある。何かが引っかかるのだ。
「MFCのサンプリング結果と、過去のデータを突き合わせてくれ。どうも気になる」
「了解でぇす。ノイズ多くて大変だけどぉ」
 リアルタイムの映像では、距離を空けたマークスと征二が対峙していた。しかし征二の様子がおかしい。何かに怯えるように、あるいは苦しんでいるようにも見える。頭を抱え、天を仰ぎ、背を丸め、何かに耐えているようだ。
「どうしたんだろ、何か変だよ征やん!」
 神林が叫ぶと同時に、眩い光が画面を覆った。それは一秒ほどの短い間だったが、光が収まった時、再び映った画面に残っていたのはマークスのみ。征二と氷漬けにされた四人は、跡形もなく消滅していた。
「いなくなったよ!」
「どういうことだ。マークスがやったのか?」
「いえぇ、こちらではぁ、テクニカルの発動を感知していませぇん」
 メイフェルに映像を巻き戻させ、征二たちが消える直前、白い光の発生をもう一度見る。光は、征二を中心に発生していた。
「水島がやったのか? いや、それとも対象が彼で、どこかに別のメンタルフォーサーが? 一体どうなっている……」
「征やん無事だよね? あれでやられちゃったなんてことないよね?」
 心配する神林に答えず、宮葉小路は思考に没頭する。仮に何者かによる攻撃だとして、征二ならシールドで防げただろうか? いや、彼自身が気付かなければシールドは張れない。だがメイフェルは、テクニカルが使われた形跡はないと言った。詠唱なしで五人もの、それも比較的広範囲に散らばった全員を霧散させるなど、メンタルフォースでは無理だ。
 ならばやはり原因は征二か。彼の様子がおかしかったのは、感情を制御出来なくなっていたから? BLACK=OUTの暴走という線すら、十分にあり得る。
 ——どこかで、あれを見たことがある。
 ——BLACK=OUTの暴走。
 宮葉小路は愕然とした。この二つが示す事実に気が付き、そして、気付かなかったことにだ。
 もしもBLACK=OUTの暴走だというなら、そのBLACK=OUTは何者だ。二年前の事件で、日向はBLACK=OUTを失っている。暴走している、しようとしているBLACK=OUTは何者だ。
「あの光の解析結果出ましたぁ」
 宮葉小路が、ゆっくりとメイフェルの方に首を回す。彼女は、信じられないという顔で画面を見ていた。
「B.O.P.データベースに該当する波形アリぃ。二年前に観測された、未分類属性メンタルフォース——」
 画面が変わった。そこには懐かしい姿、黒の少年、後ろで長い髪を縛った、世界初の人工メンタルフォーサー。
「この波形はぁ、封神の力ですぅ……」
 繋がった。征二の中で、今何が起きているのかも。
「急ぐぞ! これ以上はまずい。四宝院、輸送部を急がせろ。メイフェルは何が何でも水島を探し出せ!」
「と、利くん?」
 矢継ぎ早に指示を出す宮葉小路。まだ混乱している神林の肩を、宮葉小路が叩く。
「すぐに出る。このままでは水島の人格が崩壊しかねない!」

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