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BLACK=OUT

第九章第四話:黒のはじまり

 傾いた夕陽が、街を照らす。
 聳え立つビルの、一面だけを赤く染めて。
 暗く、長い影を落としながら。

 振り上げた手が、振り下ろされる。

「各区より緊急通報! 17時頃、所属不明の一群により、市民や設備が重大な被害を受けているとの事!」
 四宝院が、顔色を変えてマイクへ向け叫ぶ。
 次から次へと流れてくる同じような情報に、処理が追いついていない。
「四宝院! 何がどうなっている!?」
 宮葉小路が、勢いよく作戦室へ飛び込んできた。
「α~ε各区から、ほぼ同時刻に緊急通報です。何でも、メンタルフォーサーと思われる一団に、市民が無差別に襲われているとか……」
「何だ、それは……」
 話を聞いても、さっぱり訳が解らない。ノースヘルの仕業だとしか考えられないが、ここまで派手に動く理由が読めないのだ。
「とりあえず、動く! 一番被害の出ている区は?」
「δ区のようです。せやけど宮葉小路さん、δも広いで? どうするつもりなん?」
 ちらちらと、流れ続ける情報に目を遣りながら四宝院が尋ねる。これほど大規模な攻撃は想定されていないだけに、狼狽の色を隠せない。
「出れば、少なくとも敵には当たるわね」
 突然響く、生意気そうな声――神林だ。いつの間に来たのか、ドアの脇にもたれかかって腕組みをしている。
 宮葉小路は、神林にちらりと視線を送ってから、
「この状況では、どの道全てを押さえるなんて無理だ」
 と話を続けた。
「つまり、頭をぶっ潰す方が早いってことね」
「敵と接触さえすれば、敵の正体も……恐らくはノースヘルだろうが、その目的も掴める。それに、運が良ければ敵陣を知ることが出来るかもしれない」
 横に並んだ二人の視線が、四宝院に告げる。

 これが、最良の策だと。

「けど、日向さん達は? 二人とも、今外出中やろ?」
 日向とマークスは、2時間前にB.O.P.を出ている。外がこの状況では、戻ってくる可能性は低い。
「連絡は取れないか?」
「それが、さっきからディスコネクト状態で……」
 ノースヘル絡みなら、有り得ない話ではない。彼らの使うMFCはノイズが酷く、デバイスのGPSですら死んでしまう。
「……仕方がない。僕と命だけで出る。四宝院は引き続き通信を試みてくれ。何かあったら、連絡を」
「繋がる公算、少ないですけどね」
 四宝院のコンソールに流れる文字列が、凄惨な状況を伝えている。
 一刻の猶予も、無い。
「宮葉小路利光、神林命の二名はδ区に出撃する。輸送班に連絡を」

「何か、えらく慌しいな」
「そうですね……」
 その頃、二人はγ区……BLACK=OUT Project本部施設の、まさに正面に立っていた。ガラスの扉、その向こうに見える職員が、何やら必死の形相で叫んだり、手を振り回したりしている。
「何かあったな、こりゃあ……」
 そう言って、正面玄関から入ろうとした、その時だった。
「――――――!?」
 振り向きざま、レジストする。直後、何か無数の白い光が襲来し、強化ガラスを粉々に打ち砕いた。その勢いに弾き飛ばされ、図らずも建物内へと転げ入る二人。
「ちっ、何だってんだ!」
 起き上がり、二人が見たものは。
「そんな……」
 体中に、細やかなガラスの破片が突き刺さった、職員たちの躯。
 折り重なり、互いに互いの血液を混じらせて、時折ぴくりと痙攣する。
 決して狭くは無いホールに満ちる、咽るような血の臭い……。
「一体、何が……」
「メンタルフォースってやつだよ、お嬢さん」
 呆然と座り込むマークスの呟きに、砕かれ歪に曲げられた玄関からドカドカと入ってきた男が応えた。見れば、後ろにも4人、男女を従えている。
「俺たちは、ここの襲撃を命じられたんだ。観念しな、無念も残さず殺してやんぜ」
 それは、狂気か。
 猛るように笑いながら、先頭に立つ男は言い放つ。

――耐えろって言う方が、無理だよな。

「じゃ、つまり何だ」
 ゆっくりと。
 日向が、立ち上がる。
「てめぇらをここで倒せば、中は安全、って訳だ」
 ゆらり、日向の周囲が揺らぐ。その目に、紅い炎が点る。
「さぁ? 裏口からも、その他いろーんなとこからも、来てっからよ?」
 からかうように男が答えた。後ろに居た4人が、音も無く彼に横並ぶ。
「じゃ、さっさとやっちまわねぇとな……」
 その言葉と共に。
 日向の周りが、ごうと燃え上がる。
「和真さん、力使っちゃ……」
 引き止める、マークスに。
「ここで止めなきゃ……」
 歯を食いしばり、日向は声を絞り出す。
「みんな、殺されちまうんだ。これぐらい、構うか!」
 手に武器を携えた日向を見て、マークスもゆっくりと立ち上がった。
 腰のホルダーから、愛用の銃を取り出す。
「なら、私が守る。B.O.P.も、和真さんも!」
 その銃口は、寸分違わず男の胸へ。
「お前らだけは……」
 剣を振るい、炎を纏い。
「許さない!」
 日向のその一喝が、周囲を朱く染める。
「ちっ、エンジャーのフィールドだとっ!?」
 男は、プレシャー――楽――の使い手。対極となる場では、自由に力を使えない。
「それにこの力……てめぇ、何モンだ!?」
「冥土の土産に教えといてやる」
 火の粉を振り撒き、日向が爆ぜる。
「俺の名前は、日向和真だ!」

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