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BLACK=OUT

第七章第四話:碧の網

 がきぃっ……!!
 部屋を出ようとしたメイフェルへ向けられた、マークスの拳。
「メイフェルっ……!!」
 神林が叫ぶ。
 メイフェルは……目を見開き、青い顔で。

 立ちはだかった、四宝院を見ていた。

「ずっ……」
 咄嗟だったせいか、四宝院の左頬を滴が落ちる。
「ち、四宝院!!」
 日向が叫び駆け寄ろうとする。
 が。
「行かせねぇよ。あんたは、俺が倒すんだ」
 すっかり口調が変わってしまった宮葉小路が、行く手を阻む。
「……どけ、宮公。てめぇに構ってる暇はねぇんだ」
「生憎だな、日向。……この体の持ち主は、あんたの死を望んでる」
 彼を倒さなければ、どの道向こう側へ行けない。
 神林一人では不安だが、どうしようもない。
「はよ行け、メイフェル……俺も後から行くさかい……」
 ぎり、と鳴る歯の間から、搾り出すように四宝院が言う。
 それでも、メイフェルは動けない。
「っ……!!」
 神林が心刀を具現させ、正面に構えた。
 その気配に、ふっと拳を引いたかと思えば瞬く間も無く2メートル後ろへとマークスは跳躍した。
 着地と同時に、彼女は神林を視界に収めている。
 その動きにあわせ、神林は素早く二人とマークスの間に割って入った。
「何してんの! 早く行って!!」
 瞳はマークスを捉えたまま。
 少しでも気を抜けば……殺されかねない。
「四宝院、メイフェルを連れて、早く!!」
「せやけど……神林さん……」
「あんた一人いたって変わらないわよ! それより、メイフェルを!!」
 眉間の皴を、つっと汗が流れる。
「わかった……すぐに起動させるさかい、堪えてや!!」
 四宝院は、まだ呆然としているメイフェルの肩を抱いて部屋を出て行った。
 部屋を出る間際、彼が少し振り返るとドアの隙間から、マークスが踏み込むのが見えた。
 そして、ドアが閉まると同時に、激しい衝突音が脳に響いた。
「日向さん……神林さん……」
 呆けている暇など無い。
 四宝院は、痛む腕を抑え、メイフェルを抱えるようにして走り出した。

「ち、はぇっ!!」
 一方の日向は、宮葉小路と対峙している。
 本来はテクニカルユーザーである宮葉小路だが、BLACK=OUTはインファイターとしての性質を強く持っているようだ。
 彼自身は大きく動かないものの、手にした雷撃の鞭が、部屋中を縦横無尽に駆け巡る。
「どうした日向!! 逃げるだけじゃ勝てないぜ!!」
 一方の宮葉小路は、余裕だとでも言うかのように日向を嘲笑う。
「力押しの攻撃ごときでっ!!」
 言い返すものの、決して余裕は無い。
 宮葉小路の腕の筋肉の動きから、次の腕の振るい方、ひいてはそこから生じるであろう鞭の軌跡を読み取って避け続けているのだ。
 一歩間違えば、確実に捉まる。
 そうなれば、その先は見えている。
(けど……こう速くちゃ……っ!!)
 既に、それは一方的な消耗戦。
 少しずつ、だが確実に体力と集中力が奪われていく。
(なら……やるべきは一つだ……っ!!)
 一瞬出現した鞭の空間へ、日向は踏み出す。
 そこは、宮葉小路の鞭を幾重にも織り重ねることが可能な、いわば彼の牙城。
 本来ならば、日向は踏み込めない空間。
「フン……それで近づいたつもりか!!」
 日向の、もう一歩の踏み込みを許さじと宮葉小路が右手を振るう。
 その手に握られた、青白い閃光を放つ得物が日向へと襲い掛かる……!!
「!!!!!」
 次の瞬間、日向の剣が雷光の鞭を切り裂いた。
「な……っ!?」
 日向に当たるはずだった鞭の先は切り刻まれ、虚空へと霧散する。
 もちろん、それは普通の鞭ではない。
 構成物質がメンタルフォースである以上、それはすぐに再生される。
 しかし、その時彼の腕は、既に振り払われた後なのだ。
 長い鞭が高速で払われるのは、その長い先であればあるほど。
 根元は、決して速くはない……!!
「士皇……!!」
 もう一歩。
 踏み込み、払った右腕がそのまま引き手になる。
「……冥牙……っ!!!!」
 全体重を乗せ、その一撃にかける。
 ガン、という激しい衝突音と、目も眩む光。
 舞い上がった粉塵が、二人の姿を再び室内に浮かび上がらせる。
 日向の右腕は。

 宮葉小路によって、しっかりと握られていた。

「……!!」
 一瞬、事態を把握できずに硬直する日向。
 次の瞬間、彼は腹部に強烈な衝撃を覚え、後方の壁面へと叩きつけられた。
「っぐ……はっ……」
 ずるり、と壁を落ちる体。
 ずん、と地面に倒れると、彼は二度、吐血した。
「相変わらず……」
 宮葉小路は、目だけで日向を見下ろす。
「びっくり戦法だな、あんたは。それしか能が無いのか?」
「………………」
 立ち上がらなければ。
 すぐに二撃、三撃が来る。
 ずっ……と、体を起こす。
 いや、辛うじて上半身が持ち上がっただけだ。
「こんな弱ぇ奴に負けたってんだから、あいつも大した事ねぇなぁ」
 ひゅん、ひゅん、と。
 宮葉小路は、自分の周囲で鞭を振り回す。
「ま、俺はBLACK=OUTだからさ。あんた殺すくらい……簡単だよ」
 そして、彼は日向へと……最期の鞭を向けた。

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