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BLACK=OUT

第三章第三話:碧の箱

「恭ぅ……」
 心細そうに、メイフェルが声を上げた。
「なんや? メイフェル」
「日向さんたちぃ、大丈夫かなぁ……」
 三人が「休憩」をとってもうすぐ一時間になる。
 まだ、連絡はない。
「大丈夫やって。日向さんやって強いんやし、万が一の事があっても負けはせぇへんよ」
 気楽そうに四宝院が言う。
 微塵も心配している様子はない。
「第一、あの場で戦闘があるとか、そういう痕跡はないんや。MBアトモスフェアも、MFアトモスフェアも通常値やし、通報もないしな」
 喋りながら黙々とコンソールを叩く四宝院に、メイフェルが強い調子で言い寄る。
「でも恭ぅ、もしも何かあったらぁ、私たちが動かないといけないんだよぉ!」
「そないに心配なら」
 四宝院が手を休め、メイフェルを見やる。
「通信入れてみたらええやん」
「そ、そうだねぇ」
 コンソールに向き直ったメイフェルは、左手をインカムに当てチャンネルを日向に合わせる。
 しかし、彼女の耳に飛び込んできたのは彼の声ではなく、機械で作られた合成音声のアナウンスだった。
『ターゲット、ディスコネクト』
 あれ? と思い再送信するが、返ってくる声は同じだった。
 メイフェルの顔が青ざめる。
 慌てて三人の位置情報を取得しようとしたが……。
「恭ぅ……」
 四宝院は、さっきからメイフェルの様子を見ていたようで、彼女が振り向いた時には既にこちらへ顔を向けていた。
「宮葉小路利光、マークス=アーツサルト、日向和真の三名はぁ……」
 およそ。
 考えられる最悪の事態となってしまったようだ。

「ほぼ同時刻、同位置にてロストぉ……」

  件の路地を、三人は進んでいく。
 よく見れば、周りの建物などにも不審な機器が多数取り付けられているのが目に入る。
「あれ、全部MFCか?」
 宮葉小路が、呆れ顔でぐるりを見回す。
「さあな。調べねぇとわかんねぇけど……まず間違いねぇんじゃねぇか?」
「えと……この5メートルの間に約7つの機器が取り付けられてますね」
 マークスが、両の手で数えつつ報告する。
……B.O.P.が実際に設置している数を考えると、異常なほどの数である。
「一体誰が……」
 眉間にしわを寄せる宮葉小路に、日向は言った。
「あるんだろ。B.O.P.の他に……」
 その双眸は、いないはずの誰かを睨むように。
「メンタルフォースやBLACK=OUTに詳しい組織がな」
 その声は、二人を凍らせるほどの怨嗟を伴い、路地に満ちていった。

「恭ぅ、何してるのぉ?」
「日向さんらがロストした場所や。エレナさんも同じ場所で消えとる」
 ディスプレイから目を離さず、手は休むことなくディスプレイを叩き続けている。
「それがどんな関係があるのぉ?」
 意味がわからない、とメイフェルは再び尋ねた。
「エレナさんらが誰かに襲われたとして、同じ場所でっていうのも変やろ。エレナさんが消えてから、もう一時間は経っとるで」
「ふむふむぅ」
「せやからな……」
 四宝院がコンソールをタン、と叩いた。
 右のサブディスプレイに、検索していたデータの羅列がスクロールする。
「あの場所が、何か秘密を握っとると睨んだんや」

  墓場のような路地を、日向たちは抜けた。
「まったく……無数にあるじゃないか、あのMFCは」
 宮葉小路が来た道を振り返りながらぼやく。
「何の目的で、こんなに設置したんでしょうか……」
 マークスが、不思議そうにちょこん、と小首をかしげた。
「無闇につけてたわけじゃねぇだろ。全部に意味があるはずだぜ」
 話しながら、三人は露店街に足を踏み入れる。
 目の前に広がったのは……
「わぁ、すごい人ですねぇ」
「いつ見ても、うぜぇくれぇ集まってんな」
 予想以上に人出のある、活気に満ちた露店街の様子だった。
 昼時という事もあり、さすが飲食物の類の店前は芋を洗うかのようだ。
 それらの混雑にあぶれた人や、お目当ての食料を手に入れた人たちが、周囲のめぼしい露店にまたも群がる。
 見れば、街路の向こう側、日向たちが歩いてきた路地側とは反対側から、どんどん人が入ってきている。
 そして、街路から出て行く者もまた、押し寄せる人波を掻き分け消えていくのだ。
――目に入っているはずの、日向たちが立つ路地には向かわずに。
 それは、異様だった。
「……どういうことだ……?」
 つぶやいた宮葉小路が、有り得ない光景を前に頭を混乱させている。
「あのMFC……露店街に人を寄せ付けないためのものじゃなかったんですか?」
てっきり、人っ子一人いない街路が現れると思っていたマークスも、いささか困惑気味である。
「そのまんまだろ」
 事も無げに、日向が言う。
「街路が目的じゃなく、路地が目的だったんだ」
 もはや、種は読めた、と言わんばかりに。
 日向は、路地へ振り返る。
 そこには……。

――男が、立っていた。

「やっぱりや」
 四宝院が、周辺の地図とデータとを照らし合わせて得たデータに、納得の声を上げる。
「四人の消失地点の周辺に、民家はあらへん。全て同じ企業が持つ土地や」
「民家ぁ? どう関係があるのぉ?」
「しかも建物は全く使われてへん……露店街が出来始めたんは二年前……土地の買収も同時期……こりゃ、なんかあるで」
 メイフェルは、何が何だかわかっていないようだ。
「わかりやすく言うと、この周辺で、アレが使えへんって苦情が何件か来とるんや」
 言いながら、ディスプレイを指し示す。
「これぇ……じゃあまさかぁ……」
 驚き、両手を口に当てるメイフェル。
「もしかしたら……でかい事件に繋がるかしれんで……」

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