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BLACK=OUT

第二章第六話:白が放つ弾丸

 闇という名の奈落の底へ日向が走る。
 その神経は、ただひたすらに母体の動きを探っている。
――踏み込みから、右……!
 日向が感じると共に、母体が動く。
 伸びる右腕を、辛うじてかわす。
 続けて、左。
 右足に体重が移っており、かわす事は出来ない。
「ちぃぃっ!!」
 手にしたシタールで攻撃の軌道を逸らす。
 ガキィッ! という音と共に、母体は一瞬、体勢を崩した。
 その僅かな間に、自らの体勢を立て直す。
「ソロウアッパースロウフォーススモールセィーセントラルリザーブ……」
 急がなければ。
 日向が抑えている間に、マークスは術の詠唱を終えなければならない。
「ロンリィアッパーレストレインディフェンス……」
 なのに、この長い術式。
「スモールセィーセントラル……!」
 母体の右腕が、日向の左脇腹を捉えた。
「間に合って!! ガードクラッシュ!!!」
 マークスの銃口が、母体を捉える。
 同時に、蒼い弾が撃ち出された。
 弾丸は、寸分の狂いもなく母体を撃ち抜く。
「ゥガァッ!!」
 呻き、仰け反る母体。
 周囲に張り巡らされていた防御壁が、その力を失っていく。
「まだっ! リリース……!!」
「合わせるっ!!」
 日向のシタールが、赤く色を変える。
 そして、マークスの詠唱に合わせ大きく上に振りかぶった。
 マークスの銃口は、未だ母体を捉え逃さない。
「今っ!! ソロウスロウっ!!」
 再び撃ち出される氷の弾丸。
 防御壁を失った母体は、その弾丸に貫かれ大きく体勢を崩した。
 そこへ……。
「終わらせる! 玄武(げんぶ)!!」
 赤きシタールを振り下ろし、その衝撃は母体を焼き尽くす。
 衝撃波の消えた跡には、母体が横たわっていた。
「せ……成功しました……」
 緊張が一気に取れたのか、マークスがその場にへなへなと座り込む。
「はぁ……はぁ……て、手間取らせやがって……」
 日向も、連続で敵の攻撃をかわし続けたのが効いたのか、荒い息を吐きマークスの方へ向き直る。
「言っただろ、やりゃあ出来るって」
「は……はいっ!」
 満面の笑みで答えるマークス。
――今は、言わないけれど。
 自分を、日向が信じてくれたことが、マークスは何より嬉しかった。
 そして、その思いに応えられたことも……。
「母体も倒したし、戻るぜ」
 日向は気がついていない。
 この出来事が、彼自身が変わっていくきっかけとなったことに。

  二人で、駅ビルの入り口まで戻った時だった。
「日向さん、怪我、大丈夫ですか?」
「なんともねぇよ、これくらい」
「ダメですよ、血が出てます。今治療しますから……」
 そうして、マークスが手を出したその時……。
「!? 日向さん、伏せて!!」
 マークスが、日向に覆いかぶさり押し倒す。
 地面に倒れこむ日向の目には……。
「母体!?」
 先ほど倒したはずの母体が、こちらへ右腕を伸ばしている。
「マークス! どけ!!」
 このままでは、マークスが……。

ドンッ……!!

  衝撃と音に、一瞬閉じた目を開けると……。
「ふー、危なかったねー日向」
「まったく、お前は詰めが甘すぎる」
 腹部に大穴の空いた母体と、別行動をしていたチームメイトが立っていた。
「あら、マークス。アンタ、日向を押し倒すなんて、大胆ね~」
「え……エレナさん……助かりましたー……」
 振り返ったマークスが、二人に礼を言う。
「わかったろ」
 宮葉小路が、日向を見下ろしながら言った。
「一人だから出来る事と、一人じゃ出来ない事がある。……一人で何でも出来ると、思うな」
 それだけ言い、フイッとそっぽを向く宮葉小路。
「こいつはねー、何だかんだ言って心配してたんだよ、アンタを」
 エレナが、からかうように言う。
「バカ。僕はこの自信過剰男に、マークスが殺されないか心配だったんだ」
 厭味を込めて宮葉小路が応える。
「……とりあえず、礼を言っておく。助かった」
 思ったより素直に礼を言う日向に、一同の目が丸くなる。
「驚いた……まさかアンタが礼を言うなんてね」
「今のは俺のミスだ。お前たちがいなけりゃ死んでた。それは事実だろ」
 ぶっきらぼうに言う日向に、宮葉小路が
「解ればいいんだ、解れば。これからは単独行動なんかするなよ」
と言った。
「さ、無事母体も倒したし」
 エレナが明るい声を上げる。
「戻ろうか、B.O.P.へ」

  帰りの車中、日向は考える。
 ずっと、一人で戦ってきた。
 一人でいいと思っていた。
――あの日から、ずっと。
 今日の戦いで、忘れかけていた記憶が蘇る。
 まだ、二人で戦っていた、あの頃の。
 自分の無力さを知り終わった、あの日々の。

  今、追いかけたら。
 それは掴めるのだろうか。

  暗い、揺れる車中。
 日向は、考えていた。

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