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BLACK=OUT

第二章第三話:白が追う

 白く沈み込んだ街の中を、日向が疾走する。
 手元のデバイスには目もくれない。
 ずっと感覚だけで索敵してきた日向にとって、それはむしろ自然なことだった。
 ふっ、と。
 眉間に力の集中を感じ立ち止まる。
 そのまま、この墓場に相応しく音も立てずに、神経を研ぎ澄ませ位置を特定していく。
「……右側前方50メートル……飛べるか……?」
 そう呟くと、敵がいると思しき場所を睨みつける。
 と、同時に。
 一度の踏み込みで、50メートルの距離を詰める。
――正に、飛ぶように。
 目の前にマインドブレイカーの群れが迫る。
 相手に迎撃の隙も与えず、右手に集めた力を、左から右へと薙ぎ払った。
 一度の払いで、残党は3体にまで減っていた。
 勢いを殺さず、払った右手にシタールを具現化させる。
「はっ!!」
 一度、二度と。
 斬りつけられたマインドブレイカーは、異形の声をあげ消滅していく。
 力の差は、歴然だった。
 残り一体となったマインドブレイカーを前に、一度動きを止める日向。
 だが、それも一瞬の事で。
「ぜやっ!!」
 踏み込みと共に異形は霧散していく。
「………………」
――どこかに、いるはずだ。
 あいつが……。

  一方、同じ頃。
 マークスはGPSを頼りに日向を探していた。
 どうやら、インカムのスイッチは切っていないらしい。
 まだ付き合いは浅いが、縛られるのが嫌いと思われる日向にしては意外だが……。
「もし切ったら、エレナさんがすっごく怒るんだろうなぁ」
 その様子を想像し、少し吹き出してしまった。
――ああ見えて、日向さんって子供みたいなんだから。
 日向といえど、エレナには頭が上がらないらしい。
「うう、どっちかっていうと、ワンちゃんの躾をしてるように見えるんだよねー……」
 最初に主従関係をはっきりさせて、餌付けして……。
「私も、餌あげたら懐いてくれるかな~」
 それは冗談として、もう随分経つのにまだ追いつけない。
 GPSが位置を表示してくれているが、そのポイントも信じられない速度で動いている。
「早く追いつかなきゃ……」
 が、現れた二体の異形たちに行く手を阻まれた。
 マークスが一人で対処できるギリギリの数である。
「ああもう、邪魔だよー!」
――早く、日向さんに追いつかなきゃいけないのに!
 腰につけたホルダーから銃を取り出す。
 最初に飛び掛ってきたマインドブレイカーの鼻っ面に、一発。
 パシュッ。
 いきなりの迎撃に面食らったのか、敵は後退した。
 続いて、もう一体が襲い掛かる。
 それをかがんでかわし、術を詠む。
「ソロウブレットロワーユーダブルチャント……」
 そして、先ほどかわしたマインドブレイカーに銃を向けた。
「当たれっ! スナイプ!!」
 弾き出された蒼白い弾丸は、寸分の狂いもなく敵に突き進む。
 そして、驚くべきは。
 最初に撃った弾が当たる前に、マークスは残るもう一体に銃を向けたのだ。
「もう一つ! リリース……っ!!」
 一瞬のうちに、しかも全くの逆方向に撃ち出された弾丸は、傍目には同時に撃ち出されたように見えただろう。
 弾丸に撃ち抜かれた二体のマインドブレイカーは、それぞれ地に落ち、掻き消えた。
 マークスの、普段の言動からは考えられないほどの身のこなし。
 これが、彼女の真価なのだ。

  この街に足を踏み入れてから何十体目かのマインドブレイカーを片付け、日向はふぅ、と息を吐いた。
 まだ、目的のものは見つからない。
「ちっ……今回もハズレ……ってか?」
 誰に言うでもなく、天を仰ぎ一人愚痴る。
――この頻発する騒ぎの犯人は、あいつに違いないのに。
 だが、彼は未だ、その「犯人」と対峙できないでいた。
「何考えてんだ、あいつは……俺が目的じゃねぇのかよっ!!」
 苛立ちを、手近な壁にぶつけた時、その声が聴こえた。
「……要救助者か」
 メンタルフォーサーではなくとも、マインドブレイカーを見ることが出来る人間がいないわけではない。
 特に、感受性の強い幼年期の子供には、「見える者」が多いのだ。
 彼らは、こういった事件が起きた際、見えるだけに恐怖心から建物から出られなくなり、逃げ遅れるパターンが多い。
「ちっ……ガキは嫌いなんだよ」
 そのまま、無視して立ち去ろうとしたが。
「……!?」
 少年と思しき声の主がいる部屋から、気配を感じる。
 間違いなく、今、部屋の中にマインドブレイカーがいるのだ。
――面倒な……。
 ギリ、と歯を軋ませると、日向はその部屋へ飛び込んだ。
 ガシャン!!
 窓ガラスが、嫌な音を立てて砕け、四散する。
「生きてっか? 坊主」
 どうやら間に合ったらしい。
 背中越しでも、少年のおびえた様子は感じ取れるが、ダメージはないようだ。
「安心しな。俺はB.O.P.の人間だ。バケモンの仲間じゃねぇよ」
 下手にパニックを起こされても困るので、一応の説明をする。
 だが、B.O.P.の名は、思った以上に効果的だったらしい。
「お兄ちゃん、MFTの人?」
「ああ、危ねぇから下がってな」
 それだけ言うと、目の前の敵に斬りかかる。
「はぁぁぁっ!!」
 一撃で仕留め、マインドブレイカーは消滅した。
――この程度、大したことない。
 だが、一瞬の気の緩みがいけなかった。
 侵入のために割った窓ガラスから、別のマインドブレイカーが入り込んできたのだ。
 異形は、迷わず少年に向け、その凶刃を振りかざす。

  ダン……!!
 日向の口から、鮮血が零れる。
 背中には、異形の爪が深々と突き刺さっていた。

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