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BLACK=OUT

第二章第二話:白き戦場

 突如鳴り響いたアラートにより、オペレーションルームは俄かに緊迫感を増した。
「恭ぅ、被害区のMF濃度データ送ってぇ!」
「シールド展開と経路確保急いで! メンテナンスチームは!?」
 急ぎ戻ったエレナが陣頭指揮を執り、四宝院らオペレーターや関連セクションと連携しつつ情報整理や出動準備が整えられていく。
 
「では、出動前ミーティングを行います」
 着席した他のMFT三名を見回し、エレナが号令をかけた。
「まず、事件の概要から。メイフェル」
「はぁい」
 同時に、メインモニタにマップが表示される。
「11:58 頃ぉ、β2区の中心街でマインドブレイカーが発生しましたぁ。発生後10分で被害が中心部全体に及びぃ、区民が避難を開始しましたぁ。同時にぃ、区境界線 に設置されている対マインドブレイカーシールドを順次展開開始しぃ、12:31現在ぃ、区民の90%は避難が完了していますぅ」
 語尾を伸ばす口調は相変わらずだが、普段に比べれば多少はハキハキとメイフェルが説明する。
「四宝院、敵の規模は?」
 一通り聞き終わると、エレナが四宝院に詳しいデータを求めた。
「小型を中心に、約60体いるようです。MFレベルはE~C。増殖の速度と規模から、恐らく『母体』が存在し、それが被害拡大の原因と思われます」
 ハキハキとした四宝院の説明が終わると、エレナが「よし」と立ち上がった。
「敵の数そのものは大したことないけど、母体がいるとなるとやっかいだ。逃げ遅れた区民を保護しつつ、母体を捜索し殲滅するよ!」
「まあ、それが妥当な判断だろうな」
 そう言って、宮葉小路も立ち上がる。
「逃げ遅れた人たちを、早く助けましょう!」
「……んなザコ、俺一人で充分だ」
 マークス、日向もそれぞれ立ち上がった。
「日向、アンタは初陣だ。……期待してるよ」
「初陣で死ぬような醜態は晒すなよ」
「私、援護しますから! 頑張りましょう!」
 チームメイトがそれぞれルーキーを激励する。
「……うぜぇ……」
――まったく、付き合いきれねぇ。
 放っておいてくれれば、自分一人で片付けるのに……そう、日向は思っていた。
「よし、それじゃMFT、出動! 目的地、β2区! 区民の避難と、母体の殲滅を行う!」
「了解!!」

  現場までは、輸送チームが担当する。
 どこかで見た映画のように、車両後部の荷台に乗せられて輸送されるのだ。
「β2区は結構広いだろ。この人数でどうやって母体を探すんだ?」
 インカムを装着しながら、日向が尋ねた。
「本部と連絡を取りながら、母体のいそうな場所へ案内してもらうのさ」
 エレナが、手にしたデバイスをこちらへ示しながら説明する。
「マインドブレイカーはβ2区からは出ないんだよな?」
「日向、何のためのシールドだと思ってるんだ。当然、被害が広がらないように展開されてるさ」
 馬鹿にしたように宮葉小路が言う。
 マインドブレイカーは、一種の電気の塊のようなものなので、相反するメンタルフォースをぶつけると消滅する性質がある。
 これを利用したシールドを張ると、事実上、マインドブレイカーはシールドから先へは進めなくなる。
 こういったシールド類が、各区の境界線に整備されており、有事の際には使用されることになっている。
「……母体は、シールドを突破しようと思えば出来るんだろ?」
 ムッとしたように日向が言い返す。
 マインドブレイカーを生み出す母体は、元は人間である。
 積み重ねられた感情が、メンタルフォースではなく、マインドブレイカーとして具現化するのがメンタルフォーサーと異なる点だった。
「だからだね」
 エレナが言葉を引き継ぐ。
「区境界線を越えられる前に、倒さなきゃいけないんだよ」

  車両が停止し、内線で到着を告げられた。
「行くよ、みんな!」
 エレナの声に、否が応にも緊張が走る。
 四人が、「戦場」に降り立った。
 マインドブレイカーに食い荒らされた、この風景を見ると、日向はいつも思う。
――まるで、墓場のようだと。
『西エリアのMF濃度が上がってます。そちらを先に捜索してみてください』
 インカムから、四宝院の指示が伝えられる。
 手にしたデバイスで詳細位置を確認し、エレナ達は歩を進めようとした……が。
「……東だ。俺はそっちから回る」
 日向が一人で歩き出してしまった。
「おい、待て日向! 単独行動は……!!」
「っるせーな。要は母体を倒しゃいいんだろ?」
 歩みを止めず、面倒くさそうに日向が背中で答えた。
 右手は、別れを告げるようにひらひらと舞っている。
「あ、おい!!」
「ほっときな利光……この程度じゃ死なないさ」
 エレナが苦笑いして宮葉小路を制する。
「あいつの生死に興味なんてない! けど、このチームにいる以上、単独行動は許されないだろう!?」
 激しく反論する宮葉小路に、エレナも頭を掻いている。
――いきなり馴染めっていうのも、彼には酷な話なんだけどね……。
 困っていると、後ろからも反論が来た。
「エレナさん……私も心配です。やっぱり、日向さんと合流した方がいいですよ」
 心底心配そうに、マークスが言う。
(やれやれ、この娘の目には弱いんだ……)
 苦笑しながら、エレナがマークスに言った。
「わかった。初陣で単独行動させるのも何だし、マークスと行かせよう。それでいいね?」
 思いがけない言葉に、マークスの表情がぱぁっと明るくなる。
「はい! それじゃ、日向さんを追いかけますね!」
 そう言うが早いか、たたたっと日向の消えた方向へ駆けて行ってしまった。
「……大丈夫か、あいつは」
「インカムにGPSもついてるし、大丈夫さ……多分」
 マークスとて、テクニカルユーザーとしてはかなりの使い手である。
 もっとも、普段は回復や補助以外は好んでしたがらないが……。
「さて、どうする? マークスがいないんじゃ、あまり無理は出来ないぞ」
「そうだね、折角二手に分かれたんだから、逃げ遅れた区民を救助しつつ、母体を捜索しよっか。時期を見て日向たちと合流すればいいしね」
 特に考える風でもなく、エレナが即答する。
 こうなる事を見越していた……というのは、考えすぎだろうか。
 そう、宮葉小路は考えた。
「さ、それじゃ、アタシ達も行くよ!!」
 戦場の空気を震わせ、日向たちが向かったのとは逆の方向に、二人は走り出した。

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